ふれあい体験は“環境教育”や“いのちの教育”になるの?

こんにちは、Muiの山本です!

動物に直接触れることができる『ふれあい動物園』。今では日本全国で見かけますし、イベント等で一時的に開催されることもありますね。


“生きものを思いやり、自然を大切にする心を育むため”
“いのちの教育のため”

動物のふれあい事業は、しばしばこのような目的のもと行われています。

実際のところ、どうなのでしょうか?今回は、動物ふれあい事業について『教育』にスポットを当てながら考えていきます。

"ふれあい"の現場を訪れて

私たちはこれまで、数々の現場を訪問してきました。
その中で幾度となく目にしてきたのが、動物たちの悲惨な姿です。

アカハライモリが何人もの手に追い回され、
手足を掴まれ宙づりに。
ふれあいの現場では、触りやすいように
狭い空間に動物を閉じ込めていることが多いです
「ふれあい」の時間、ウサギが人の少ない場所に集まっていました。
そのうち見つかり、追いかけられ、散り散りに逃げていきました

撮影に夢中になるあまり、動物が長時間の拘束や不自然なポーズを強いられたり。

度重なるツーショット撮影の後、翼をダランと下げ
パンティング(ハアハア息をする)をしていたメンフクロウ。
暑さの他、ストレスでも見られる行動です。
スタッフに声をかけたところ「問題ない」との返答
複数人がのぞき込むこんだり撮影をしている間、
モルモットたちは箱の中に隠れていました

子どもが野菜を食べない動物に悪態をついたり、「コイツむかつく」などと発言する場面も…

ワンフロアにたくさんのリクガメが放されていました。
甲羅に乗ったり、暗い室内のため誤って蹴ってしまうことも。
スタッフがおらず、無法地帯のようでした

スタッフが細心の注意を払って行う場合もあるでしょうが、何せ上記のような状況は少なくありませんでした。

教育から見た"ふれあい"

ここからは、教育的観点から考えてみましょう。

教育基本法を見ると、“環境教育”や“いのちの教育”に関する目標として『生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと』とあります。

子どもたちから声をかけられ触られる中
木枠の中でジッとしていたチンチラ。
チンチラは夜行性の野生動物です

ふれあい動物園では、夜行性の野生動物を日中に利用したり、野生下では集団行動をする動物を単独にしたりと、習性や生態が無視された不自然な状態が非常に多いです。
果たして、そこから自然環境への理解は生まれるでしょうか。

まだまだ親の愛情が必要な幼い動物が親から引き離されたり、幼齢期を過ぎると用済みとなってしまうことも…
果たして、生命を尊重していると言えるのでしょうか。

与える・もらうの関係の上で成り立つ餌やり体験は
動物に対する誤った優位性を植え付けかねません。
「餌やり」には動物の栄養管理上の問題もあります

思いやりの心は、相手の気持ちを想像し、共感することで育まれます。

もし自分が、知らない人たちに触られたら?
囲まれ、ジロジロ見られ続けたら?
髪や手足を引っ張られたら?
狭い空間に閉じ込められたり、身体を拘束され続けたら?

嬉しいと感じる人は少ないのではないでしょうか。しかし、ふれあい体験の場では“当たり前”のこととなっているため、想像力や共感力は鈍化してしまいます。

手から落下する様子が何度も見られたワシミミズク。
脚に繋がれたリーシュで宙づりになっていました

事業者によっては「ストレスの少ない触り方」のレクチャーを行っています。一見、動物への優しさが身に付くように感じますが、前提に“触られることはストレス” という事実が存在します。学べるものは、本当の優しさなのでしょうか。

このように、動物ふれあい事業を“環境教育”や“いのちの教育”の観点から考えると、多くの矛盾や問題が見えてきます。

動物のあたたかさや心音を感じることは、心動かされる体験かもしれません。しかし、その体験の多くは、動物の苦しみの上に成り立つもの。動物への歪な理解に繋がる恐れがあることを忘れてはいけません。

人間との歴史が長い「家畜化された動物」であっても、人とのコミュニケーションが苦痛であったり、環境の変化に大きなストレスを感じるなど、感情や感覚はそれぞれです。IAHAIOは、直接の触れ合いに野生動物を利用すべきでないとし、家畜動物の中でも『心身ともに健康で活動を楽しむことができる動物によって行うこと』と定めています。

※ 人と動物の関係に関する国際組織(International Association of Human-Animal Interaction Organizations):人と動物との相互作用の正しい理解を促進させるために各国で活動している学会、協会等の国際的な連合体。日本も加盟。

変わる"ふれあい"事情

近年、事業者側の意識も変わってきているようです。

ある公立動物園を調査していた時のこと。元々は不定期で「ふれあいコーナー」を設けていた園でしたが、動物福祉を鑑み、実施しないことになりました。

園でふれあいが行われていた頃のモルモット。
コーナーが無い時は食糧庫に入れられていました
(写真は食糧庫での状態です)

変化は、他国でも起きています。

例えばオーストラリア。
旅行者を中心に人気のアクティビティである“コアラの抱っこ”ですが、現在は半分以上の州で禁止になっています。可能な州であっても、抱っこの取り止めを選択する園が増えています。その理由は「人間に抱っこされることは、コアラにとってストレスであるため」というもの。

人間中心の体験への問題意識は、世界中で広まりを見せています。

平和的な教育を!

子どもに“生きものやいのちの大切さ”を伝えるのは、動物たちの役割ではありません。

Muiを立ち上げる以前、私は9年ほど自然環境教育の指導員として活動していました。その中で、動物を飼育下に置かずとも、子どもたちが動物への思いやりや生命の大切さに気付く瞬間を、たくさん見てきました。


私たちの周りには、多様な野生動物たちが暮らしています。たとえ姿は見えなかったとしても、想像し、存在を感じることができます。遠い地の野生動物たちに想いを馳せられるような、素晴らしい映像作品もたくさんあります。
環境教育の機会は身近に溢れています。

そして、動物たちが自由に生き、世代を繋ぐ姿を温かく見守ることは、いのちの教育に繋がります。

大切なのは、子どもたちを取り巻く社会が、その機会をどれだけ大事にできるか。

私たちは、“生きものやいのちの学び”を、他者の感情や生命を犠牲にせずとも見出せるはずです。
みんなで、動物にも子どもにも優しい教育を目指しませんか?

自然や他生物を尊重し、平和に共存する社会を

Muiでは、野生生物や自然環境への理解を深め、思いやりの心を育む環境教育を実施しています。ご希望の方はお問い合わせフォームまたは以下の連絡先から気軽にご連絡ください♪

contact@mui-wildlife.org (担当:山本)



参考:
International Owl Center「Owl Glossary」https://www.internationalowlcenter.org/owlglossary.html#gularfluttering(閲覧日2025年4月7日)
文部科学省「教育基本法」https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html(閲覧日2025年4月8日)
WILD WELFARE「NUTRITION AND FEEDING」https://www.internationalowlcenter.org/owlglossary.html#gularfluttering(閲覧日2025年4月7日)
The Guardian「Should cuddling koalas be legal? Here’s why there’s a push to ban it in Queensland」https://www.theguardian.com/australia-news/article/2024/jul/04/koala-cuddling-ban-queensland-lone-pine-sanctuary(閲覧日2025年4月8日)