“動物親善大使”ウォンバットの過去と未来 ー動物と人の関係性を考えるー

大阪府池田市にある市立五月山動物園には、オーストラリアに生息する野生動物・ウォンバット(ヒメウォンバット)が5頭飼育されています(2026年5月8日現在)。うち2頭は、2025年10月にオーストラリア・タスマニア州のローンセストン市から譲渡されました。

五月山動物園のウォンバット舎
(2020年撮影)

園は現在、老朽化等に伴うリニューアル工事中であり、再オープンは2027年度を予定しています。それまでは一部エリアなどを限定的に公開していくそうです。

池田市と『ウォンバット』

池田市とローンセストン市は姉妹都市として、長年、友好関係を築いてきました。1990年、姉妹都市提携25周年ということで、タスマニア州の『トロワナ・ワイルドライフサンクチュアリ(Trowunna Wildlife Sanctuary)』(以下、サンクチュアリ)から“動物親善大使”として3頭のウォンバットが贈与。以降、同施設からの譲渡や国内他園とのやり取り、繁殖や死亡などを経て、今日の頭数に至ります。

トロワナ・ワイルドライフサンクチュアリ

今回の2頭に関しては、この先もウォンバットの展示を維持したいという思いから、調整を進めてきたそうです。

2025年2月時点で池田市は《令和7年度中にウォンバットの飼育スペースを整備したうえで迎え入れる》計画であることを発表。市長の滝沢智子氏は「ウォンバットは池田市の財産で、市のPRにも貢献している。楽しみにしてほしい」と話されました。

野生のウォンバット
(タスマニアにて撮影)

因みに2024年4月時点では、サンクチュアリのオーナーであるAndroo Kelly氏が「飼育環境の改善を強く求め続けてきた。施設の改修が完了するまで、ウォンバットの追加導入を保留にしている」という意思を示されていることが、地元メディアにて取り上げられています。

増やす池田市、減らすローンセストン市

友好関係による動物の贈呈は、ウォンバットだけではありません。1980年、池田市からニホンザル10頭を、ローンセストン市からはワラビー10頭をそれぞれ贈り合いました。

以降、ニホンザルはローンセストン市内の公園『Launceston City Park』にある飼育施設で40年以上飼育され続けています。

ローンセストン市

そんなニホンザルたちですが、2024年、市議会により新たな決断がなされました。近親交配が続く現状への懸念から、これ以上繁殖を行わないことにしたのです。過密飼育による福祉の低下も危惧してのことです。

『オスの去勢手術』と『今後新たなサルを導入しないこと』により、今いるサルたちが生涯を終えた時点で、飼育は終了となります。オーストラリア国内には、他にもニホンザルを飼育している施設があるため、近親交配を避けながら飼育を存続することは可能です。しかし、他施設とのやり取りによる維持は却下されました。

Launceston City Parkにあるニホンザルの獣舎
引用元:By Nick-D - Own work, CC BY-SA 4.0

ローンセストン市長(当時)のMatthew Garwood氏は、「この決定は難しいものだったが、サルたちの福祉を最優先に考え、できる限り長く、彼らが健康で幸せな状態を保てるようにするためのものである。(中略)私たちは可能な限り最高の基準で彼らの世話を続けていく」と発言されました。

市議(当時)であり、RSPCAタスマニアのCEOでもあるAndrea Dawkins氏は、「もし今、サルを飼う機会を与えられたとしても、私たちは『はい』とは言わないだろう。(中略)人間が純粋に楽しむためだけに動物を飼育するという時代は、すでに過ぎ去ったことだ」と述べられました。

友好都市として動物の贈呈をし合い、飼育を続けてきた両市。ここ数年で方針が二極に分かれたのは、驚くべきことです。

五月山動物園のこれから

現在、五月山動物園では、総事業費約12億円をかけて改修工事が進められています。また、今年度中に入場料の有料化の可否を含め市議会などで議論する予定だそうです。滝沢市長は、「持続可能性はとても大事。維持経費に関して負担をお願いしたいと思っている」と発言されています。

2020年に園を訪問した際、
リクガメが非常に狭いスペースで
飼育されていました

園のウェブサイトのトップページには『目指すのは、動物と人の関係性を見つめなおし、日々をともにする動物園。お互いの心地よさを尊重し、ほどよい距離を保ちながらともに生きる環境へ。』といった意気込みが掲載されています。また、ウォンバットの生息域外保全(絶滅が危惧される種を人工的な施設に移し、保存や繁殖を行う活動)にも力を入れていくとしています。

友好の証やPRマスコット、来園者の癒し、種の保存... 五月山動物園のウォンバットたちは、多くのものを背負っていくことになります。

Muiより ー動物と人の関係性とはー

動物は贈与品でもなければ、宣伝のための道具でも、娯楽でもありません。

ローンセストン市がニホンザルについて下した決断は素晴らしいと思います。近親交配が繰り返されてきた過去は消えませんが、今いるサルたちが十分なケアを受け、心地よい日々を送れるよう願っています。

『野生動物』は、自然の中で多様な生きものたちと関わり合いながら、“種”として“個”としての生涯を歩む存在です。自然や生態系から切り離され、遠い地の飼育下で管理されることが、果たして彼らのあるべき姿でしょうか。

歩きながら採食を行う野生のウォンバット。
行動圏は平均17haほどもあるとされています
(タスマニアにて撮影)

日本はタスマニア州の原生林破壊に加担してきた国のひとつです。残された自然の中でウォンバットたちがこの先も暮らしていけるよう、現地の環境保護活動等に協力すること。そして、ウォンバットや世界中の生きものたちを苦しめる気候変動を抑止すべく、全力で取り組むこと。それこそが、ウォンバットの保全のためにできる活動だと考えます。

自然豊かな島として知られるタスマニアですが、
開発と地元住民による反対運動の歴史が
各地で垣間見られます。
開発は、今も続いています
(タスマニアにて撮影)

動物たちに負担をかけない人間社会の在り方を目指し続けることが、持続可能な未来に必要な“動物と人の関係性”ではないでしょうか。

動物たちを真に尊重する時代へと進もう。

参考:
1)産経新聞「ボクらは豪州から来た「ソラ」と「リク」 大阪・五月山動物園のウォンバットの名前決まる」(2026年1月5日)

https://www.sankei.com/article/20260105-WFHXVUH6XBP2RIZK53S7RD4AA4/
2)Walker Plus「国内で6頭の珍獣・ウォンバット、日本で2番目に小さな動物園に4頭いるのはナゼ?」(2020年8月6日)
https://www.walkerplus.com/trend/matome/article/1004813/2.html
3)産経新聞「ウォンバット、五月山動物園で新たに2頭受け入れへ 大阪・池田市長「PRに貢献」」(2025年2月22日)
https://www.sankei.com/article/20250222-TVSCUOEOPFMV3PCCNWSL7O7E2Y/
4)ABC hobart「World's oldest-known wombat originally from Tasmania set to turn 35 at Satsukiyama Zoo in Japan」(2024年4月17日)
https://www.abc.net.au/news/2024-04-17/worlds-oldest-known-wombat-from-tasmania-lives-in-japan-zoo/103689236
5)The Guardian「Troop of Japanese monkeys in Tasmanian park to be sterilised and die out amid inbreeding fears」(2024年12月13日)
https://www.theguardian.com/australia-news/2024/dec/13/troop-of-japanese-monkeys-in-tasmanian-park-to-be-sterilised-and-die-out-amid-inbreeding-fears
6)読売新聞「ギネス最高齢記録のウォンバットで知られる市立動物園、開園約70年で初の有料化を検討…市長「持続可能性はとても大事」」(2026年4月11日)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260411-GYO1T00182/
7)一般社団法人 野生生物生息域外保全センター「私たちの使命」(最終閲覧日:2026年5月8日)
https://www.ex-situ-cc.tech/?page_id=96